みたらしだんご先輩(A)

  一人暮らしのワンルーム。
  男、うつぶせに倒れている。
  傍らに安っぽい小さなテーブル。三本入りのみたらしだんごのパックが載っている。
  女、部屋に入ってくる。

女 せんぱーい。せんぱーい。
男 おう。来てくれたか。
女 うわ。くさっ。なに、この匂い。
男 おう。こっちだ。
女 あれ、先輩。…寝てる?
男 寝てないよ。おきてるよ。こっちだ。
女 え、なに? …なんか変。
男 そうなんだよ。
女 先輩、先輩。(男の体をゆする)
男 あ、それ触らないほうが。
女 え。なに、これ。
男 それ、違うから。
女 え、なにがですか。
男 それ、俺じゃない。
女 え、でも、このアディダスのようでアディダスじゃない三本線は確かに先輩の、
男 だから触るなって。暑いんだから。 
女 いいじゃないですか。
男 腐ってるんだよ。もう。
女 え。…先輩?(触ろうとする)
男 やめろ。
女 (触る)あれっ。硬い。
男 だろ?
女 え、どういうこと?
男 不思議だろ。
女 あれっ。…死んでる!?
男 かもしれない。
女 え。あれ。なに、じゃあ、なに、この声。幽霊?
男 だと、わかりやすいな。
女 でも幽霊にしてははっきり声が聞こえる。
男 いいか俺の声を良く聞け。そして、声のするほうをよく見ろ。

  女、声のするほうを見る。テーブルの上にみたらしだんごがある。

女 先輩。
男 おう。
女 先輩。
男 おう。
女 (キョロキョロする)
男 あってる。あってるって。それで正解だから。
女 いや、でも。
男 だんご、見えてるだろ。
女 見えてますけど。
男 そこから声が聞こえてるだろ?
女 …。ブルートゥース?
男 ないよ!
女 え、だっておかしいですよ。みたらしだんごから先輩の声が聞こえてくるって。
男 それであってるんだよ。
女 は? 先輩、マジでなに言ってるんですか。
男 よくわからないけど…しかたないだろ。
女 え、わからない。
男 俺、みたらしだんごになったみたいなんだよ。
女 え。
男 俺、みたらしだんごなんだよ。
女 しっかりしてくださいよ。先輩。安部公房の読みすぎですって。
男 読んだことないよ。
女 ええっ。そんなバカな。読んでくださいよ。おもしろいですよ。
男 俺も混乱している。
女 えっと、ああ、あの、あれ?
男 俺も、どうしてこうなったのか、さっぱりわからないんだ。
女 どうして先輩の肉体は腐ってるのに、だんごのほうは無事なんですか?
男 知らないよ。防腐剤とか、入ってるんじゃないの?
女 うわー。食品添加物ハンパないっすね。
男 まず気にするところはそこなのかよ。
女 だって。
男 要するに、こういうことだ。
女 なんにも要してないですよ。なんなんですか。これは。
男 わからない。
女 なんでおだんごなんですか。
男 わからないよ!
女 先輩、将来の夢は警察官だったじゃないですか。
男 人生いろいろあんだよ。子供のころの夢なんてかなうほうが、
女 だんごはないですよ。
男 そうだ、だんごはない。
女 どうしてだんごなんかに。
男 きっとあれだよ。八百万の神的なことなんじゃないかな。
女 先輩、神様になったんですか。
男 そうかも。
女 だんごのくせに?
男 だんごをバカにするな!
女 えっ。なんですか、まさかだんごに愛着わいてきてるんですか。
男 わいてない。
女 なんとか元に戻る方法を考えなきゃ。
男 無駄だ。
女 どうして。
男 俺の肉体はもう腐っている。俺にはもう帰る場所がない。
女 じゃあ…、これ、どこまでが先輩でどこまでがだんごなんですか。
男 え?
女 いや、だから、三本のうち何本が先輩なんですか。
男 一本だよ。
女 どれ?
男 真ん中だよ。
女 ほんとに?
男 ああ。
女 じゃあ、たとえば、両サイドの二本は食べても先輩は平気なんですか。
男 平気だ。
女 じゃ、(両サイドの二本をとろうとする)
男 おい、やめろ!
女 え。
男 やめるんだ。
女 …どうして。
男 …。っていうか、腐りかけの肉体のそばでよくだんご食おうなんて思えるな。
女 いや、食べようなんて思ってません。ただ、どこまでが先輩で、どこからが先輩でないかはっきりさせたくて。
男 いいんだよ。そんなこと気にしなくて。せっかく三本でワンパックなんだから。
女 まさか先輩…。
男 なんだよ。
女 両サイドの串にも、愛着わいてるんですか?
男 わ、わいてないって!
女 先輩…。私よりみたらしだんごのほうが大事なんですか。
男 何言ってるんだよ。おまえ。
女 こんな三本百円で買えるようなみたらしだんごの何がいいんですか?
男 おまえ、みたらしだんごをバカにするな!
女 えっ。先輩。体だけではなく、心までみたらしだんごに成り下がってしまったんですか。もう人間としての誇りを失ってしまったんですか!
男 バカなことを言うな。
女 先輩! しっかりしてください。
男 でも…、俺はもうみたらしだんごなんだからしょうがないだろ!
女 先輩…。
男 なんだよ。
女 (串を手にとって)串と団子をはずすと…死にます?
男 死なないよ。
女 (ゆっくり串に手を伸ばす)
男 …おい、やるなよ!
女 実験しましょうよ!
男 しないよ! 
女 わかりました。先輩が嫌ならやめます。
男 なあ、これから、俺、どうしたらいい?
女 だんごですもんね。みたらし。
男 ああ…。
女 (床の上に黒いものをを見つけて悲鳴)うわあああ!
男 なんだ?
女 (悲鳴を上げながら、部屋を出て行く)
男 おい、待て。待てって! 俺を一人にするな!

  暗転。
  椅子と机に明かり。
  机上にカセットレコーダー。録音中。
  女が座っている。

女 あの日見たものが、猫だったのかドブネズミだったのか、それとも巨大なゴキブリだったのか、今となってはわかりません。とにかく、私が部屋に戻ったときには、みたらしだんご先輩は消えていました。
よって、私は串団子ならごまだんご派です。ご静聴ありがとうございました。

  女、カセットレコーダーの停止ボタンを押す。ガチャリ。
  無表情。真っ暗になる。


前田司郎劇作ワークショップより みたらしだんご先輩(A)おわり

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