みたらしだんご先輩(B)

  ひなびた和菓子屋。
  和装の男が店番している。
  下手からサングラスをかけた女が入ってくる。

男 いらっしゃい。
女 みたらしだんごください。
男 かしこまりました。おいくつですか?
女 えっと。みたらしなしでお願いします。
男 …。奥へどうぞ。
女 はい。

  二人、上手の小上がりに移動。

男 (みたらしだんご二本ののった皿とお茶をだす)よかったら。
女 ありがとうございます。
男 期限と人物を。
女 できるだけ早く。
男 はい。
女 ケーキ屋の長男です。
男 いくつ?
女 いくつ? いくつって?
男 …なんだ知らないの?
女 すみません。
男 しょうがないな。一回しか説明しないよ。(目の前のみたらしだんごを一串手に取る)だんご。おいしいよね。
女 は、はい。
男 これが俺のエモノだ。
女 え?
男 (一番先の団子一つを食べる)一つ減ったね。
女 はい。
男 少し出てきた竹串でこめかみをザクリ。
女 おお…。
男 相手は気絶する。
女 なるほど。
男 もう一つ食べるでしょう。(食べる)
女 はい。
男 もっと…竹串が出てきたね。
女 はい。
男 その分、深く刺せるよね。
女 はい。
男 二つで植物状態。三つ食べれば、竹串一本分がまるまるこめかみにねじ込まれる。つまり、絶命する。
女 なるほど…。
男 さ。もう一本ある。決めてください。
女 あ、あの。ちょっと考えさせてもらっていいですか。
男 …。(待つ姿勢)
女 すみません…。(恐る恐るみたらしだんごを一個食べる)…う、うまい。
男 わかりますか。
女 もちもちしてて。いや、お団子だから当然なんですけど、みたらしのしょっぱさとお団子自体の自然な甘さが、絶妙です!
男 水が違うんですよ。
女 (二個、三個と食べる)…は!
男 三個、でいいんですね。
女 あ、ごめんなさい。おいしくて。つい。もう一本いいですか。
男 …別料金ですよ。(店頭に団子を取りに行く)
女 隙あり! (懐から水羊羹の缶を取り出し、はずしたフタで、男の首筋を狙う)
男 (かわす)貴様!
女 しまった!
男 何者!
女 ふふ。まだわかりませんか、先輩!(サングラスを取る)
男 おまえ、まさか…こしあん、だんごか!
女 やっと気づきましたか。先輩、腕、落ちてるんじゃないですか?
男 貴様、破門になったくせに、いまごろなぜやってきた?
女 ふふふ。免許皆伝と言うからどんな商売をしているかと思えば、だんごの数で復讐のランク付けをするとか、なんて古臭い。
男 黙れ。
女 まわりくどい。効率が悪すぎる。
男 うるさい!
女 でも感謝しているんですよ、先輩。たしかにあのとき、私のこしあんは、あなたのみたらしに敗れました。一子相伝の殺人術はあなたのものになった。しかし、
男 なんだ。
女 おかげで、私はもっと大きな力を手に入れました。それが、これです。(もうひとつ水羊羹の缶を取り出す)
男 み、水羊羹だと。
女 これは、ただの水羊羹ではありません!
男 スーパーでよく見かけるやつと何が、
女 これは、わたしがかつて師匠から受け継いだ小豆のおいしい炊き方で作った究極の水羊羹なのです!
男 なんて…うまそうなんだ。
女 当然です! 誰が見てもこれは普通の缶入り水羊羹。まさか凶器になるとは、夢にも思うまい!
男 たしかにな。で、どうするんだ。俺にはバレちゃったぞ。
女 ふっ。まさか、先輩。今のが私の実力のすべてだと思っているんですか?
男 違うのか。
女 ふふふ。あなたの串は竹、私のフタはスチール。どちらが強いかなんて、小学生でもわかることじゃないですか。
男 (みたらしだんごを構える)やってみろ。
女 覚悟!

  男と女、交錯する。
  男は女のフタを回避。竹串を女の首に刺す。

女 うっ。ば、ばかな。(バタリ)
男 ふ。俺のみたらしは、お前が考えているほど、甘くないぜ。
女 どうして…。
男 おまえの水羊羹は確かにすごい。しかし、フタをはずさなきゃ食べられない。そのプルタブを引く分、おまえの攻撃は遅くなるんだ。
女 でも、先輩だって、おだんごを食べる時間が…。
男 こんなこともあろうかと、あらかじめだんごを食べておいた串を用意しているのさ。(懐から串を取り出して見せる)
女 そ、そんな。ずるい。
男 さあ、なぜこんなことをした。言え。
女 ふ、ふふふ。
男 なにがおかしい。
女 さすがですね。先輩。安心しました…。
男 なに?
女 すみません、先輩。だましうちみたいな真似して…。
男 おい、何を言ってるんだ。
女 気をつけてください。ヤツらは先輩をねらっています…。
男 どういうことだ。
女 私じゃ手も足も出ませんでした。私は、私はあいつらの言いなりになるしか…。
男 (女の上半身を起こして抱く)おい、しっかりしろ。傷は浅いぞ。
女 バカなこと言わないでください。先輩の技は一撃必殺。助かるわけないじゃないですか。
男 ふふっ。
女 え?
男 お前の首筋に突き刺したのは一つだ。
女 でも、確かに串だけだったはず…。
男 こんなこともあろうかと、全食いの串、一つ食いの串、とっさに出し分けられるようにしているのさ。(懐から一つだけ食べた串団子を取り出して見せる)
女 はは。先輩、それじゃ、服の中ねちゃねちゃじゃないですか。
男 ふふっ。そうだな。
女 やっぱり、先輩にはかなわないや。
男 まずはゆっくり休め。おまえには聞きたいことが山ほどある。
女 そうさせてもらい…がはっ!!(血を吐く)
男 どうした、こしあん!
女 げほっ、げほほっ!!
男 どうした!?
女 …ヤツらは…決して裏切り者を許さない。
男 おい、しっかりしろ!
女 これは、先輩のせいじゃありません。これは、ヤツらの…。
男 バカな! この東洋医学と和菓子を融合させた奇跡の殺人術を持つ俺を出し抜くことなど、できるはずが…。
女 げほっ。げほほほっ!
男 こしあん! しっかりしろ! ヤツらって何者だ!
女 先輩…。
男 こしあん!
女 タルト…タタン…。(ガクリと事切れる)
男 こしあーん!
女 …。
男 こしあん。お前のカタキは必ずとってやる。うおおー。(泣く)

前田司郎劇作ワークショップより みたらしだんご先輩(B)第一部・完

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